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俺が質問する前に、亮はこっそり耳打ちする。
「荒潟さんは仕事が終わるとうちの店で飲んで、長居せずに帰ってしまうんです。
将平さんもよく来てくれるのにお互い顔を合わせないのは、時間がズレているからなんですよ。
この前は珍しく荒潟さんが遅くに来て、将平さんと初対面する事になりましたが。」
俺はあの時の泥酔振りを思い出し、顔が火照るのを感じながらボソボソ言う。
「迷惑掛けてすみません。
瀬川さんにもちゃんと謝ろうと思ってるんだけど…。」
店に出勤しているのは、まだ亮だけだった。
彼はにっこり笑って言った。
「今日は瀬川は休みです。
でも将平さんの気持ちは僕から彼に伝えますから心配しないで下さい。」
店長同様、亮も優しい。
2人の気遣いが嬉しくて、俺はいつも気持ち良く酒が飲める。
…ちょっと待てよ?
さっき亮は『店長の策略』って言ったような?
俺が意味を尋ねようとしたその時、ドアが開いて長身の男が入って来た。
陽に焼けた肌に、無造作に束ねた黒髪。
彫りの深い顔。
荒潟だ。
彼は俺に気付き、軽く頭を下げた。
が、俺とは反対側のカウンター席の端に座ろうとする。
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