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不意に、荒潟が言った。
「将平さん、どうして泣いてたの?」
「えっ!」
酔っ払って担がれた時は、まだ泣いてはいなかったはず…。
すると、荒潟が申し訳なさそうに言った。
「あの後心配になって、ちょっと様子を見に行ったんだよ。
そしたら、ソファーに丸まっているのが見えて…。」
俺は顔が真っ赤になるのを感じたが、今更隠す方が恥ずかしい気がして、素直に訳を話した。
荒潟は黙って聞いていた。
見た目は得体の知れない怖そうな人物だが、真剣に耳を傾けてくれる姿は好感が持てる。
不思議な男だな、と思ったのと同時に、彼と目が合った。
真っ黒な瞳は優しさに溢れ、吸い込まれていまいそうだ。
「…何だか、もう酔ったみたいだ。」
俺が呟くと、荒潟が笑って言った。
「よく誤解されるけど、俺も酒は強くないんだよ。
じゃ、帰ろうか。」
「…帰るんですか?」
俺はもう少し話しをしていたかった。
アパートに帰れば、健志の私物整理が待っている。
それを思うと気が滅入った。
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