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口には出していないはずだが、荒潟が立ち上がって俺に言った。
「俺の家に行こう。」
「でも、急にお邪魔するのは…。」
「大丈夫だよ。
俺、独り暮らしだし。」
大型犬を飼っているのだから、家族と一戸建ての家に住んでいるとばかり思っていた。
着いてみると、一戸建てには違い無かったが…。
タクシーから降りた俺は、家を前にして上から下まで眺める。
いや、『家』では無かった。
これは『蔵』だ。
土壁に三角屋根を乗せた古い倉庫が空き地の真ん中に忽然と建っている。
正面には和食屋に有りそうな格子戸の玄関があり、後ろにはハルニレの木が覆い被さるように伸びていた。
「汚い家だが、遠慮しないで寛いでくれ。」
荒潟はそう言い、引き戸を開けて中に入る。
俺も後に続いて足を踏み入れると、突然、大型犬が飛び出して来た。
そして主人を通り越し、尻尾を振り回しながら俺に組み付く。
「わあっ!ハイド!
やめろって!」
俺はハスキー犬を引き剥がし、興奮を抑えよう頭を押さえて
「ダメ!」
と言った。
その途端、荒潟が大笑いする。
なぜ笑われたのか分からなかったが、妙に恥ずかしくなって突っ立っていると、彼が言った。
「中入って。」
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