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すると、この店に入ったばかりのバーテンが俺の所に飛んで来て囁いた。 「ツツミさん、もう少し声のボリューム落として下さい。」 「え?ああ、ごめんね。 でも、今なんて言ったの?」 俺が尋ねると、バーテンは溜め息混じりに答える。 「…もう少し、小さな声で…。」 「ツツミじゃないから。」 俺も、大袈裟に溜め息をついて言い返した。 「俺、筒海(つつうみ)。」 俺の名前は筒海将平(つつうみ しょうへい)。 でも、大抵はツツミと間違われる。 何度もそんな事があって訂正せずに過ごしているが、今日の俺は最悪の酔っ払いだから絡んでしまった。 「瀬川(せがわ)さん、俺の名前もちゃんと覚えてないくせに注意すんの? さっき俺に出したカクテルだって、注文と違うの知ってた?」 間違っていると直ぐに気付いたのに、黙って飲んだのは俺本人だ。 今更文句を言うなんて最低だが、俺は本当にどん底の状態だったのだ。
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