1.

4/18
前へ
/507ページ
次へ
バーテンが明らかにびびった顔で俺に言った。 「す、すみません!」 それを聞いた途端、俺は我に返った。 「…あ、ごめん。 俺の方こそ大声出して…。」 急に罰が悪くなり、俺はここから退散しようと立ち上がった。 しかし足元が振らついて、椅子ごと後ろにひっくり返る。 「将平くん!」 店長の声が飛び、俺は自分がこけると確信したが、床に落ちる前に誰かの胸に保護された。 服の上からでも分かる厚い胸板だった。 俺は顔を上げて相手を見る。 東南アジア系の外国人に見えた。 長身で肌が浅黒く、半袖のTシャツから伸びた腕にもしっかりと筋肉が付いている。 マッチョとまでは行かないが、男から見ても(きっとノンケでも)格好良いと思える体付きだ。 顔は小さくて目鼻立ちがはっきりしている。 長く真っ直ぐな髪を後ろで束ね、やはり黒く光る瞳で俺をじっと見ていた。 その時、店長が言った。 「荒潟(あらがた)さん、将平くんをこっちまでお願いします!」 …荒潟?日本人か。 すると彼は俺をひょいと肩に担ぎ上げ、店長に言われるまま、奥の事務所へと運ぶ。 俺は恥ずかしかったが、頭が下がったせいか目が回り出して、抵抗するより身を任せた。
/507ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1493人が本棚に入れています
本棚に追加