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恵巳がハイドを押し退けながら俺に言う。 「それ、こっちのセリフ。 いきなり現れて怒鳴るから、びびったじゃん。」 「おまえがジキルやハイドと仲良くなってるなんて知らなかったんだよ。」 「バカ犬が不憫で、お手とお代わりくらい教えてやらねぇと、って思っただけ。 でも全然出来なくて、こんな調子だけど。 ジキルとは仲良くしてねぇよ。 こいつ、俺の目を盗んではスマホ弄って、この前もギュンに変なメールを…。」 言っている傍からジキルがスマホの画面を肉球で連打する。 「あーっ!この野郎!」 恵巳は叫び、ジキルからスマホを奪い返した。 しかし表示を見た途端、悲鳴を上げる。 「こいつ、滅多に会わない友達にふざけたスタンプ連続で送りやがった!」 笑わずにいられない。 俺は吹き出してしまったが、恵巳の方は送信先に謝罪のメールを追送しようと必死にスマホをタップする。 「やべぇ。マジやべぇ…。」 その慌て振りもおかしくて、俺は腹を抱えてゲラゲラ笑った。 「…俺への嫌がらせだ。」 恵巳が布団に突っ伏して呟く。 俺はその隣でハイドに圧し掛かられて仰向けにひっくり返っていたが、彼の呟きはちゃんと聞いていた。 恵巳がまたジキルに八つ当たりしないよう、俺は顔だけ向けて彼を宥めた。 「ジキルは物怖じしないし器用だろ? だからおまえがスマホを弄るのを見て真似しただけで、悪気はないんだよ。」 しかし恵巳はなぜか罰の悪い顔をし、ぼそぼそ言った。 「前にちょっと悪戯したんだ。 空いた猫缶にヘビのオモチャ入れてテーブルに置いて見たんだよ。 あのジキルが仰天したら面白いじゃん? でもちょっと離れた隙に缶もヘビも裏庭にぶん投げられてた。」 「それなら仕返しされて当然だ。」 俺が呆れて言うと、ジキルがどこかで 「ニャ~。」 と鳴いた。 恵巳は飛び起き、辺りをキョロキョロ窺う。 でもロフトに姿はなく、声に反応したハイドが代わりに階段を掛け下り、猫を探しに行った。
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