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俺は大型犬から解放され、両手足を広げて目を瞑る。
恵巳は俺が知らない間にジキルやハイドと距離を縮めていた、それが分かった途端、安心したせいか急に睡魔が襲って来た。
不意に手が伸び、むにゅっと頬を掴まれ、
「ヒヨコちゃん。」
と笑われた。
俺は眠気もあり、口を突き出したまま
「またそれ?楽しいかよ?」
と文句を言ったが、実際には唇がピヨピヨと動いただけだ。
恵巳のクスクス笑いが聞こえる。
でも俺は眠気に勝てず、どうでもいいや、と好きにさせていた。
その時だった。
恵巳の気配が間近に迫り、目を開けようとした瞬間、唇に柔らかい物が触れた。
掠めるように過ぎ去ったそれは、間違いなく恵巳の唇だった。
キスされた。
俺は驚いたが、目は開けなかった。
開けるのが怖くて寝転がったまま、相手が『これも冗談だ。』と言って笑うのを待つ。
ところが、いくら待っても恵巳は何も言わない。
居た堪れなくて薄目を開けると、隣で寝ている大きな背中が見えた。
耳を澄ますと、穏やかな寝息まで聞こえて来る。
起き上がって覗き込んだ俺は、目を疑った。
恵巳は本当に眠っていた。
俺の動揺を余所に、すやすやと。
俺はモヤモヤを抱えてロフトから下り、1階の自分の布団に入った。
ただ、いつまでも目は冴えていて、朝方まで眠れなかった。
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