22.

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俺は大型犬から解放され、両手足を広げて目を瞑る。 恵巳は俺が知らない間にジキルやハイドと距離を縮めていた、それが分かった途端、安心したせいか急に睡魔が襲って来た。 不意に手が伸び、むにゅっと頬を掴まれ、 「ヒヨコちゃん。」 と笑われた。 俺は眠気もあり、口を突き出したまま 「またそれ?楽しいかよ?」 と文句を言ったが、実際には唇がピヨピヨと動いただけだ。 恵巳のクスクス笑いが聞こえる。 でも俺は眠気に勝てず、どうでもいいや、と好きにさせていた。 その時だった。 恵巳の気配が間近に迫り、目を開けようとした瞬間、唇に柔らかい物が触れた。 掠めるように過ぎ去ったそれは、間違いなく恵巳の唇だった。 キスされた。 俺は驚いたが、目は開けなかった。 開けるのが怖くて寝転がったまま、相手が『これも冗談だ。』と言って笑うのを待つ。 ところが、いくら待っても恵巳は何も言わない。 居た堪れなくて薄目を開けると、隣で寝ている大きな背中が見えた。 耳を澄ますと、穏やかな寝息まで聞こえて来る。 起き上がって覗き込んだ俺は、目を疑った。 恵巳は本当に眠っていた。 俺の動揺を余所に、すやすやと。 俺はモヤモヤを抱えてロフトから下り、1階の自分の布団に入った。 ただ、いつまでも目は冴えていて、朝方まで眠れなかった。
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