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「将平!」
急に名前を呼ばれ、我に返る。
荒潟が汗塗れになったシャツの胸元を扇ぎながら、俺に向かって言った。
「残った陶器と売り上げ金を陶芸家さんの所に持って行くぞ!
夕飯に有り付けるから早く来い!」
俺は事情が分からなかったが、急いで彼のトラックに乗り込んだ。
俺は窯元さんと陶芸家さんが同一人物だとばかり思っていたが、それは間違いだった。
食器を作ったのは嘉門(かもん)と言う陶芸家で、奥さんはカフェを営んでいた。
古民家を改築した趣のあるカフェは、道産のオーガニック素材を使った料理が人気だそうだ。
店内にはご主人の陶芸作品も陳列されていて、購入も可能。
裏手には工房もあり、そこで週に一度、陶芸教室が開かれている。
「工房の電気窯じゃ、大量の焼き物は仕上がらなくてね。
大きな作品も、あの窯元さんの所で焼いて貰っているんだ。」
嘉門さんが笑って言う。
まだビールをグラス1杯しか飲んでいないのに、顔が真っ赤だ。
「ペースが速いわ。」
奥さんがテーブル席にやって来て、旦那の額をぺちっと叩く。
嘉門さんは
「痛い!」
と文句を言うが、奥さんは知らん顔。
さっさと厨房に戻ったと思ったら、俺達に次から次へと料理を出してくれた。
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