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荒潟が風呂から出て来ると、忽ちハイドがダイニングテーブルの下から這い出して主人に甘えた。
「くっ付くな!
せっかく風呂に入ったのに毛だらけになるだろ!」
怒られても纏わり付く大型犬に音を上げ、彼は
「こいつ、どうしたんだ?」
と俺に尋ねた。
「ジキルにイジメられたんだよ。」
笑って答える俺に、荒潟は、ふうん、と呟き、そのまま考え込んでしまった。
荒潟が何を考えているのか知りたかったのもあるが、腰にタオル1枚巻いただけの格好をもっと見ていたいのもあり、俺は会話を促した。
「ジキルって綺麗な猫だね。
真っ白で、目もガラス玉みたいだ。」
「そうか…。」
ん?そうか、って変な返事だな。
俺が首を傾げると、荒潟は頭を掻きながら言った。
「実は、見た事がないんだ。」
「は?」
「ジキルはいつの間にか居ついた猫で、足音や声は何度も聞いているんだが、実際には姿を見ていないんだよ。
泊りに来た友人のうち何人かが目撃しているんだが、俺には気配だけだ。
餌や水を置いても無視するし、マタタビで誘き寄せようとしても駄目だった。
普段はどこに居るのか、どこからこの家に出入りしているのか、全く分からん。」
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