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嘘みたいな話しに俺は目を瞬かせる。
しかし、荒潟は真剣な顔で俺に近付いて言う。
「俺もジキルを見てみたい。
あいつが現れたら、捕まえてくれないか?」
「ええっ?
む、無理だよ!
神出鬼没だし、逃げ足速いし…。」
「大丈夫!
ジキルがそこまでちゃんと姿を見せるなんて、おまえの前だけだ。
あいつを手懐けて籠に入れてくれ。」
荒潟は籠を探してあちこち歩き回る。
しかし見つからないらしく、結局、運んで来たのはゴミ箱だった。
「周りに空気穴を開けておくから、おまえはこれをジキルに被せて捕まえる。」
「強引だな。
でも、とにかく先に…。」
俺は目のやり場に困りながら呟く。
「パンツ穿いて。」
荒潟の腰に巻いていたタオルは、もうとっくに落っこちていた。
裸は気にしない素振りの彼も、俺が照れるせいか急に前を隠して服を取りに行った。
俺も風呂を使わせて貰い、家に戻ると主の姿はない。
俺は落ち着いて体を拭き、彼が用意してくれたTシャツとショートパンツを身に着けた。
俺には大きくて、肩は合っていないしズボンも7分丈になってしまった。
明日は自分のアパートに帰って服を取りに行こう、などと考えながら階段を上る。
そしてふと気付く。
…俺、今日は一度も健志の事を思い出さなかったな。
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