4.

5/16

1494人が本棚に入れています
本棚に追加
/507ページ
「荒潟さん、俺、大丈夫だから!」 俺は抵抗したが、彼は足を止めずに言った。 「小さな傷でも破傷風になったら大変だぞ。 手を洗って消毒しなきゃダメだ。」 荒潟には有無を言わせない力があった。 それが声音なのか態度なのか、彼の独特な容姿から来るのかは分からないが、俺はただ『はい。』と言うしかなかった。 嫌な気持ちはしなかった。 強引さの裏にある、彼の優しさが嬉しかった。 荒潟は三郷さんから消毒薬や絆創膏を借り、傷の手当てをしてくれた。 恥ずかしくて肩身の狭い思いをしていると、三郷さんがいそいそとアイスコーヒーの入ったグラスを運んで来て言った。 「将平くん、痛かったかな? ちょっと休憩した方がいいよ。 アイスコーヒーは飲める?」 まるで子供扱いだ。 荒潟が笑いを堪えているのが分かり、俺は顔から火が出そうだった。 正午過ぎ、俺達は車に乗り込み、コテージを後にする。 剪定作業は全て終わっていないが、俺が怪我をしたせいか、三郷さんは快く期限を明日まで延ばしてくれた。 「俺のせいでごめん。」 俺が謝ると、ハンドルを握る荒潟は小さく笑って言った。 「将平を連れて来たのは、オーナーがおまえを気に入ると踏んだからなんだ。 どう考えても剪定作業は半日で終わらないし、かと言って助っ人を頼めば、それだけ収入が減るだろ? 不器用な学生バイトが一生懸命仕事していると思えば、あの人だって時間をくれると思ってさ。 怪我は予想外だったけどな。」
/507ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1494人が本棚に入れています
本棚に追加