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「荒潟さん、俺、大丈夫だから!」
俺は抵抗したが、彼は足を止めずに言った。
「小さな傷でも破傷風になったら大変だぞ。
手を洗って消毒しなきゃダメだ。」
荒潟には有無を言わせない力があった。
それが声音なのか態度なのか、彼の独特な容姿から来るのかは分からないが、俺はただ『はい。』と言うしかなかった。
嫌な気持ちはしなかった。
強引さの裏にある、彼の優しさが嬉しかった。
荒潟は三郷さんから消毒薬や絆創膏を借り、傷の手当てをしてくれた。
恥ずかしくて肩身の狭い思いをしていると、三郷さんがいそいそとアイスコーヒーの入ったグラスを運んで来て言った。
「将平くん、痛かったかな?
ちょっと休憩した方がいいよ。
アイスコーヒーは飲める?」
まるで子供扱いだ。
荒潟が笑いを堪えているのが分かり、俺は顔から火が出そうだった。
正午過ぎ、俺達は車に乗り込み、コテージを後にする。
剪定作業は全て終わっていないが、俺が怪我をしたせいか、三郷さんは快く期限を明日まで延ばしてくれた。
「俺のせいでごめん。」
俺が謝ると、ハンドルを握る荒潟は小さく笑って言った。
「将平を連れて来たのは、オーナーがおまえを気に入ると踏んだからなんだ。
どう考えても剪定作業は半日で終わらないし、かと言って助っ人を頼めば、それだけ収入が減るだろ?
不器用な学生バイトが一生懸命仕事していると思えば、あの人だって時間をくれると思ってさ。
怪我は予想外だったけどな。」
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