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俺は店長の後に付いて歩きながら、ふと尋ねる。
「秋吉さん、俺を運んでくれた人、誰?」
「ああ、彼は荒潟知巳(あらがた ともみ)さん。
先月、店のテーブルの取り替えを頼んだ業者さんだよ。
それから週に一度、飲みに来てくれるんだ。」
「家具職人さん?」
単純に見た目のイメージで言ったのだが、店長がぷっと笑って答えた。
「いいや、『何でも屋』だよ。」
俺がきょとんとしていると、店長は面白そうに俺の顔を眺めて言った。
「掴み所の無い不思議な男だが、悪い人間じゃないよ。
機会があれば本人に直接訊いて見るといい。」
何だか分からないまま、俺は店長に腕を引っ張られ、事務所から出る。
店内に残っている客は2、3人で、副店長の亮が俺に気付いて軽く会釈した。
俺も慌てて頭を下げ、店長と一緒にエレベーターへ向かう。
廊下で箱が来るのを待っていると、店長が唐突に言った。
「健志(たけし)くんの事は驚いたよ。
まさか彼がバイで、結婚まで決めていたなんて…。」
「…店長の所にも招待状が届いたの?」
俺は平静を装うつもりだったが、声が上擦った。
感情が溢れ出して、それと一緒に涙まで出て来た。
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