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そう、美味かったのだ。
友達の家族はみんな良い人達で、俺が施設で生活している事を知っても、温かく接してくれていた。だから余計に美味しく感じたのかもしれない。
一緒に食卓に着いている自分が、この家族の一員になったような気がしたのだ。
でも、友達の母さんがこう言った。
「将平くん、施設でちゃんとご飯食べさせて貰ってないんでしょ?」
周りを見ると、俺の皿だけが空になっていた。
美味いから、火傷も構わずに夢中で食べてしまったが、それが飢えているように見えたんだろう。
おばさんが本気で心配しているのが分かった。
俺はその優しさが嬉しい半面、例えようのない悲しみが込み上げた。
俺はやっぱり、立場が違う。
子供心にそう思った。
多分、それが切っ掛けだ。
俺は食べる事に関心が無くなり、食が細くなった。
食い物だけじゃなく、色んな物にも執着が無くなって、感情も押し殺すようになった。
その代わり、周囲から心配されないように笑顔だけは心掛けた。
こうして『明るく能天気な将平』が出来上がり、職場でもそのイメージで通している。
俺は荒潟が作ってくれたグラタンをゆっくり食べた。
ふと視線を感じて顔を上げると、彼がじっと見ている。
俺は慌てて言った。
「荒潟さん、本当に料理上手だね!
このグラタンも最高に美味いよ!」
「本気で言ってるなら、もっとガツガツ食えよ。」
俺が黙っていると、彼はテーブルに肩肘を付いて言った。
「俺は下品だなんて思わないから。」
気付いていたんだ。
俺は恥ずかしくなり、取り繕うようにグラタンを頬張った。
胃が温まり、胸の中では彼の優しさがじんわりと泌みた。
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