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俺の脳裏に、荒潟が南国の島で暮らしている光景がはっきりと浮かんだ。
椰子の木に囲まれた風通しの良い家。
釣って来た魚を持ち帰る彼に「お帰り。」と言ってハグする褐色の肌の美女。
その周りで駆け回る子供達…。
心臓が、ぎゅっと縮まる感じがした。
苦しかったが、俺は平気な素振りで質問した。
「荒潟さん、外国人の血縁者がいるの?」
すると、荒潟が笑って答えた。
「こんな見た目だけど、生粋の日本人だよ。
10代の頃にバックパッカーをやっていて、ある外国の島に半年間滞在した事があったんだ。
そこの暮らしが妙にはまって、今でも時々戻りたくなる。」
「…親や兄弟、友達と離れても?」
こう尋ねれば、自分の家族の事や生い立ちを話してくれるかと思った。
しかし、彼はただ微笑するだけで答えてはくれなかった。
日が落ちると、辺りは忽ち真っ暗になった。
俺達は早々にテントに入り、ごろりと横になる。
エアマットだけでなく、折り畳み式のマットレスも重ねて敷かれていて、驚くほど寝心地が良い。
ハイドも一緒だから少々窮屈だが、急激に下がる外気と薄布1枚で隔てられたテントの中は互いの体温で暖められ、俺は睡魔に襲われた。
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