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釜戸は壊して綺麗に掃除し、纏めた荷物を車に運び入れる。
ぽつぽつと降り出した雨が本格的になるのと同時に積み込みが終わり、俺達は転がり込むようにして車に乗った。
ハイドは誰よりも先に乗っていたから、毛も濡れずに大あくびしている。
荒潟が車を動かしながら笑って言った。
「危機一髪だったな!」
「笑い事じゃないよ。」
俺はげんなりして言い返す。
「もう少しで浸水する所だった。」
「悪いな、将平。
前は満潮時でも、あそこまで波が来なかったから油断した。」
そう言う割に、彼は楽しそうだ。
俺は溜め息混じりに呟く。
「荒潟さんって、ハプニング好きだよね。」
荒潟が、ハンドルを切りながら笑って言った。
「その繰り返しで俺は生きてる。」
俺にとって、それは笑って聞き流せる台詞では無かった。
なぜなら、俺は…。
俺は『生きる』と言う言葉を胸を張って言えない。
どうやって生まれて来たかも知らないまま、いつの間にか他人の世話になって生活していたからだ。
一生懸命生きているつもりでも、人ごとのような感覚が常にあって、それを拭い去れないでいた。
基盤が無いから、ふわふわと浮いているような感じ。
唯一繋ぎ止めているのは、社会と結ばれている細いロープ1本。
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