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子供心にも、その不安があったのだろうか?
俺は一度だけ、施設長である仙波(せんば)さんに尋ねた事がある。
『母ちゃん先生、僕、ツツミなの?
ツツウミなの?』
『あなたはツツウミ ショウヘイくんよ。』
『変なの…。』
『どうして?』
『だって、お父さんもお母さんもいないのに、変だよね?』
『…。』
『なんで筒海将平じゃなきゃダメなの?
僕、母ちゃん先生と同じ仙波将平がいいな。』
『いいえ、あなたは筒海将平くんよ。』
施設長は優しく俺の頭を撫でてくれたが、俺はそれから彼女を『母ちゃん先生』ではなく、『仙波先生』と呼ぶようになった。
「将平。」
揺り動かされ、俺は飛び起きた。
助手席で居眠りしていたらしい。
雨は止み、フロントガラスから朝日が差し込んでいる。
目を細める俺に、荒潟が白い歯を見せて言った。
「見ろよ。綺麗だろ?」
山の谷間から昇る太陽。
空の彼方はまだ暗いが、連なる山頂は金色に輝いている。
「綺麗だね…。」
俺は言い、早朝の空気を取り込もうと、助手席の窓を開けて思い切り息を吸い込んだ。
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