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俺は同僚の黒木に連絡を取り、こっそり仕事道具を拝借して来た。
荒潟に清掃を依頼した人物が全て用意してくれているらしいが、窓拭きは慣れた道具じゃないと手間が掛かるし、何より命綱のハーネスは安心出来る物でなければ嫌だった。
家に戻って来た俺を出迎えてくれた荒潟が、不安そうな顔で言う。
「本当に大丈夫なのか?」
俺は笑って答えた。
「自慢じゃないけど、窓拭きは会社の中で俺が一番早かったよ。
安全帯さえちゃんと着けていれば落ちる事はないし…。」
落ちる話しをしたのはまずかった。
荒潟の顔色が悪くなり、彼は額に手を当てて呟く。
「…やっぱり断った方が…。」
「心配するなって!」
俺は彼の肩をぽんと叩く。
「俺を信用してよ。」
あの荒潟に、こんなセリフを言えるなんて。
せっかく休暇を取ったのに、俺は明日の仕事にすっかりやる気を出してしまった。
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