第1章

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「お前、格闘オタクだからな」 「おめえに言われたくねえよ。だからわしは目の前にいる奴がどのくれえつええか、大体判る。 十年前の雹と対面した時、わしはその男には勝てる気がせんかった。冷や汗が止まらんかったよ」 「お前がか?そりゃ相当な奴だなおい」「ああ。それから依頼して次の日から、あの事件が起きた」 「ああ。黒竜会の組長から幹部、本部の人間に至っては全員、行方不明になったあの事件か?」 「そうだ。全部で八十六人だ。雹に依頼してから毎日、大量の人間の目玉が送られて来る様になったんだ」「目玉だと?」 「ああ。全て生体反応があった」「・・・」 「特に一日目は三十六人分、三十六個の目玉がわしの所に送られて来た。黒竜会の本部の人間全員の人数と同じだ」 「・・・て事は、一晩で三十六人殺したのか?あの武闘派の連中を」 「ああ。本部には当時五丁の拳銃があった筈だ。壁には弾丸が三十発撃ちこまれていた」 「よく知ってるな。そん通りだ。だから当時警察は、敵対ヤクザとの抗争があって、どこかへ連れ去られたんだろうと考えた。 ヤクザ同士の殺し合いだ。すぐに捜査は打ち切られた」 「ああ。だが、わしら山王会の人間はあの時、一切手出ししちゃおらんのだ。みんな雹一人でやった事なんだ」 「三十六人相手に一人でか。そりゃ確かに化け物だな」 「ああ。その後支部長とその配下の幹部全てが次々と行方不明となって、事実上黒竜会は壊滅した」 「ああ。それも知ってる。有名だったからな。俺は担当してなかったが」 「その後すぐに雹から電話があったよ。一億振り込めってな」「それで振り込んだのか?」 「ああ。そうしなきゃ、わしが殺されてたろうよ。それでな。その時、拳銃に撃たれなかったのか訊いてみたんだ。 そしたら何て答えたと思う?」「さあな」 「拳銃の弾は、たかだか時速三百キロだ。野球のボールの倍のスピードしかない。 撃つ瞬間が分かっていれば、避けられて当然だ、と、そう言ったんだ」「撃つ瞬間が分かる、だと?」 「ああ。何でも他心通力と言うんだそうだ。神通力の一種で、他人の心を読むらしい。
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