第1章

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すると撃つ瞬間が手に取る様に判るそうだ」「ほう。他心通力ねえ」 「ああ。距離にして半径百メートルくらいまでなら離れていても分かるらしい。あとな。 目で確認できなくても人がどこに何人いるのか正確な位置が判るそうだ。そいつの大体の強さもな。 これはそいつのオーラの大きさと圧力と鋭さで分かるらしい」 「それが本当なら、一晩で三十六人殺したのも肯けるな。拳銃の弾も避けられたわけだ」 「実際に起きた事だ。雹の言う事を信じんわけにゃいかんだろう」「しかし三十六人もの人間をどうやって運んだんだ?」 「わしも気になってそれを訊いてみた。何でも特殊注射針で全員眠らせた後、十トンダンプの荷台に乗せて、 全員連れ去ったそうだ」「はあ。わざわざその場で殺さずに連れ去った目的は何なんだ?」 「殺した証明として目玉を抉る事が理由の一つ。もう一つは薬の実験の為なんだそうだ。 特に殺人を隠ぺいする意図は無いらしい。結果的にそうなっちゃいるがな」「実験だと?」 「ああ。眠る様に死ねる薬とか、なるべく長く苦しみながら死ぬ毒とか、恐怖の感情だけを増幅させる麻薬とか、 色々と研究しているらしい。雹は薬学の研究者なのかもな」 「しかし、神通力だとか武道の心得のある人間を手玉に取る身体能力は、どこで身につけたんだ?」 「うむ。それも訊いた。何でも若い頃、戦場で傭兵をしていたそうだ。そこであらゆる殺人術を学んだらしい。 実際に人は殺さなかったそうだが。 あとは世界中のジャングルで麻薬や毒の原料となる植物を採取する目的の為でもあったそうだ。 特に南アメリカのアマゾンには、まだまだ未知の植物が沢山あるらしい。神通力については教えてくれんかったがなあ」 「いい趣味してんな。雹の野郎」泉は呆れて言う。 「わしの知っている事はそれだけだ」 黒崎がそう言うと山王会本部屋敷の庭にいた鳥達が一斉に飛び立つ。 辺りには何やら不穏な空気が立ち込めている。 「ああ。大体判った。大分見えてきたよ黒崎。ありがとよ。おい富田。帰るぞ」 「は、はい!」富田が立ち上がる。 「おいおい。ちょっと待て」黒崎竜三が二人を呼び止める。 「何だよ黒崎」泉はめんどくさそうに言う。
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