第1章

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「これだけの土産話をしたんだ。このまま帰すわけにゃいかんな」 「成程。七竜会としちゃ大事な部下が捕まった。誰かが情報を漏らしたと考える。怪しいのは山王会だ。 七竜会じゃなく他の中国マフィアと手を組むつもりで裏切ったかもしれないと思うだろうな、周龍なら」 「そういう事だ。おめえをこのまま無事に帰したんじゃ、わしらが疑われる」 「やっぱりね」泉がそう言った途端、黒崎の背後の襖が開く。中から空手着を来た男が一人出てくる。 明らかに空手の有段者と分かる体格だ。 「この男は極神空手六段だ。全国大会で準優勝した事もある。何でも有りの殺し技を使わせたら日本一だろうよ。 泉、この男と闘ってくれ。そうすりゃ七竜会にも言い訳が立つ」「泉さん!逃げましょう!早く!」 富田は震えながら泉の袖を引っ張る。「おい鬼頭!酒を持ってこい!こいつは久しぶりに、いい酒のツマミになる」 「へい!おい、すぐにお持ちしろ!」鬼頭がそう言うと、一分も経たないうちに日本酒が膳で用意される。 「おい、黒崎。俺にも道着を貸してくれ。こいつは俺の一張羅なんだ。結構いいスーツなんだぜ。破かれちゃたまらん」 泉はスーツを脱いで富田へ放り投げる。「おお。そう言うと思って新品を準備しとる。おい、持ってこい!」 すぐに真新しい道着が用意された。泉は素早く着替える。「泉さん、やめましょうよ。殺されますよ泉さん!」 「おい、富田とかいうの」「は、はい」「黙って見ておれ。今から泉の正体が判るぞ」 「うるせえ!黙ってろ、この戦闘マニアのくそじじい!」「こりゃあ、随分と嫌われちまったなあ」 黒崎は自分の禿げ頭をぴしゃりと叩き、楽しそうに笑う。 「久しぶりに見れるな。泉神円流(いずみしんえんりゅう)十四代目当主、泉了輔の技がな」富田は驚いて泉を見る。 泉は「余計な事を・・・」と、無表情に呟く。黒崎は目を輝かせながら、手酌でぐいぐいと日本酒を呷っている。 泉は着替え終わると「さっさと終わらせようぜ」と、これから闘う男に言う。
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