第1章

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山王会総本部は閑静な高級住宅街の中にある。泉警部と富田刑事は、山王会の広い駐車場の一角にパトカーを停めた。 正門にいた黒服の男達が、ざわめいている。パトカーを降り、二人は正門へ近付く。 「おい。サツが何の用だ?」門番が威勢よく泉の前に立ちはだかる。「会長の黒崎いる?」 「おい。例え警察の人間でも会長を呼び捨てにするんじゃねえよ」 「ああ、もう。面倒くせえ奴だな。いいから泉が来たと伝えてくれ。そうすりゃわかる」「何だと?」「ほら、行った行った」 男は舌打ちし、奥へ入ってゆく。五分くらい経っただろうか。門番の男が戻ってくる。 「泉さん。先程は失礼しました。会長がお会いになるそうです。どうぞ」「おう、ワリぃね。富田、付いて来い」「はい!」 泉は奥へ上がり、ズカズカと歩いていく。純和風の豪華な作りの家だ。回廊をひたすら歩く。 門番の男は途中、カシラと呼ぶ人間に一礼し、二人の案内を預けた。物腰からいって、かなり上の方の人間だろう。 二人は更にその男の後について歩き続ける。やがてカシラと呼ばれた男は、襖を開け「どうぞ、中へ」と勧めた。 「ご苦労さん」泉は一言呟くと、遠慮なく入りこむ。富田も続いた。 大きい広間の正面に、頭の禿げた体のでかい迫力のある男が座っている。その男の前に、二つの座布団が敷いてあった。 「まあ、座れや」低くドスの利いた声だ。嗄れているが辺りによく響く。泉は右側にどっかと座りこむ。 胡坐をかいて片肘を足に乗せ頬杖にする。富田は左に座るが、とても胡坐をかく気になれない。 正座して手をきちんと足の付け根に置いた。「んな緊張すんなよ。楽にしな」 黒崎にそう言われても、富田は言う通りにはとても出来ない。 「まあ、仕様がねえやね。山王会の会長相手じゃねえ」
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