9/18
前へ
/368ページ
次へ
私が息をあらがせて、彼の車、青のインテグラを見つけた時、彼はエンジンはかけずに車の中にいた。 私に気がつくと、助手席のロックを解いてくれた。 「失礼します」 「はい。どうぞ」 私は前に向き直る彼をちらっと見た。 横顔も、格好いい。黒ブチのメガネも、よく似合っている。 “優しいお兄さん”的雰囲気を醸し出している。 ちいさな頃、欲しかったな。こういうお兄さん。 頭も良くて、モテて、だけど、妹の私には格別に優しい、そんな理想のお兄さん。 今いるお兄ちゃん――実際は従兄弟にあたるひとだけれども、彼は活発で、女遊びが激しくて、 全然理想のお兄ちゃんではない。 この人、私と同じ年齢……か、少し上だろうな。 大学生かな。平日のこんな時間にこんな場所に、いるだなんて、ね。 車に乗った途端、よその人のうちに行ったような香りを覚えた。 シトラスフレッシュの香り。かわいらしい芳香ビンが、助手席のダッシュボードの上にちょこんと乗っていた。
/368ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加