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地元、K駅前の居酒屋『鬼ヶ島』で七時から始まった会は当初、当時に返ったかのような嬌声があふれていた。
「おまえかわったな」「かわらんな」などの甲高く飛び交う声は杯を重ねるうちに「家買った」「こどもが生まれて」などといった今の自分たちにふさわしい重低音に置き換わった。
「ひさしぶりだなーオチ」
「うわーヒグチか!なつかしー」
そんな会の終盤でボクとヒグチはいつのまにか隣り合って話をしていた。
冷静に考えれば高校入試で離ればなれになり、いつしか疎遠になったヒグチとは彼が九州の大学に行っていて、成人式にこっちに帰ってこなかったことを考えると二十年ぶりに話すことになる。
しかし中学校の友達というのは不思議なもので、こうして隣り合い、当時の話をしていると自然と関係まで昔に戻ったような気がして、違和感なく話をしている。
「へー、オチ海外出張とかしてんの、かっこいいじゃん」
「いやいやうち中小だし。それに中国とかもあるんだよ、大変だよ」
「俺は結局東京で結婚してさー、今、たまたま嫁が里帰りしているからこっちに顔出してみたんだわ」
生活臭のしみついた低音が交差する。
不意にヒグチが『サナダ』の名前を突き刺してきたのは、そんなふうにお互いに近況を交換し合い、気持ちよく杯を重ねていた時だった。
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