第1章

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「キャッチボールしなくていいから、どんな手段を使ってでも相手を倒す」 「……それ意味ないですよね? それに倒しちゃ駄目だと思うんですけど」 「だから、勝たなくていいし何でもいいんだよ。投げたら何かは届く」 「難しく考えないで良いし、上手くできなくてもいいんだよ、熊子ちゃん」 りせ先輩のフォローが入る。 何だかそれは、結局答えになってないような。いや、先輩達だって理屈が分かってるわけじゃなくて、理屈じゃない何かで一緒にいるんだ。 好きとか、誰かと一緒にいたいと思うのと同じで、何を話すかも理屈じゃないんだ。 「それにわたし、熊子ちゃんと話すの好きだなぁ……それじゃ駄目?」 「駄目じゃないです」 分からないけど、何か分かった気がする。りせ先輩がくれた言葉が私の不器用な部分に響くのを感じる。胸がいっぱいになる。 相談できただけでもいい。 少し先を歩いていた夏希先輩が振り返る。 「それで、今日はどこ行こっか?」 何か、すごく伝えたい。理屈じゃなくて、何も考えずに今。 「わたっ、私も、りせ先輩のこと好きです……」 尻すぼみになってしまった。二人の注目が私に集まる。今すぐにでもここから逃げ出したくなる。顔が馬鹿みたいに熱い。 考えるような一瞬の間があって。 「えへへ……先輩ちょっと照れちゃうな」 言葉どおりに照れてくれるりせ先輩。早歩きで私のところにやって来て、無言で私のほっぺを四方八方に引っ張り始める夏希先輩。 夏希先輩のこともちゃんと好きですよ。そういうことじゃないですか? たぶん、そういうことじゃないですね。 ああ、今日はどこに寄り道しようかな。
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