第1章

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小学校の頃はこの名前で苦労した。女心の分からない男子に「熊だ! 教室に熊がいる!」と馬鹿にされた。 中学になれば女子と男子の間に少し距離ができて、そんなこともなくなり、高校でもそれは同じ。 それに加えて高校では、名前のことに触れるほど親しい友達がまだいない。だから、新鮮だった。 「熊だけどポニーテール……ふ」 「熊はもういいです!」 まだ熊いじりをして笑ってる夏希先輩から自分のポニーテールを隠す。夏希先輩め……。 「ごめんごめん。悪気はないんだよ。ただ反応が面白かったから」 「雰囲気で分かってますけど……」 「じゃあ、熊子ちゃんって呼んでもいい?」 月輪先輩が人懐っこい笑みを浮かべてそう提案してきた。 「もちろんいいです。じゃあ私は先輩のことを何て……月輪先輩、ですかね?」 「それでもいいけど、わたしも熊子ちゃんのこと名前で呼ぶから、わたしのこともりせって名前で呼んで欲しいな」 「で、では、りせ先輩」 「ありがとう、熊子ちゃん」 にこにこしてるりせ先輩と、目が泳いでる私。名前で呼んだり呼ばれたり、やっぱりいいなぁ。 「ねえトーリ、あたしのことは何て呼んでくれるの?」 「先輩の名字って何でしたっけ」 「うん? 北条だよ、北条夏希。べつに名前で呼んでくれていいよ」 「じゃあ夏希先輩ですね」 「じゃあ熊子ちゃんも夏希も、先にアイスを食べちゃおうか」 「そうですね」 私はストロベリーのシングルだけど、見てみるとりせ先輩も同じだ。夏希先輩はチョコミントで、これもシングル。それに2人ともコーンじゃなくてカップだ。 ひとくち食べる。今の私にはもう甘いものは必要ないけど、でも美味しいものは美味しい。 「りせ先輩もストロベリーなんですね。それにシングルだし、カップの」 思ったことを何気なくつぶやく。 「一緒だね、偶然。わたし食べるの遅いからカップじゃないと手が汚れれるの」 そこまで言ってひとくち。「美味しい」って言いながら上品に食べる。 「それにわたし、食べたものがすぐに身につく体質だからあんまり食べれないんだ。秘密だけど」 恥ずかしそうに言ってみせる。でもそうやってキープできるんだから全然恥ずかしいことじゃない。 それからも何でもないようなことを言いあって、食べたり話したり。なんだ、私もやればできるじゃん。 すごく話しやすい。敬語なのに気を遣わない感じ。
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