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駅につき改札を通る。
ここからバスに乗ればあっという間だが時間があったので散歩がてら歩くことにした。
途中、俺たちの通っていた高校がある。
そして、何度も美咲と歩いた通学路。
「懐かしいなー」
つい、口をついて言葉が漏れた。
時間は夕刻で日が傾き始めていた。
靴から伝わる冷えているような道路の硬さと鼻の奥の方を刺す凛とした空気に冬を感じる。しかし目を瞑ればこの道の春夏秋冬の景色を鮮明に蘇らせることが俺には出来た。
季節がら何もない田んぼに青々と茂る苗を見ることも、くすんだ色の厚い雲のかかった空に高く青い秋空を見ることも容易だった。
隣に美咲がいないのは残念だが、無事にプロポーズを成功させて家に帰るときにはこの道をまた2人で歩こう。
それで、これからいろいろな道を二人で歩きたいと思う。
まずは、新婚旅行で外国の道だな。
俺は妄想して薄笑いを浮かべた。
最近は仕事ばかりでこんな風にゆっくりと景色を見ながら散歩することもなかった。この数日、俺は仕事を休んでいる。前は仕事を休むのが怖かった。周りに迷惑をかけることが申し訳なかったのと俺がいなくても仕事が回ってしまったらと思うとそれが1番怖かったのかもしれない。
居場所ってのは大事なものだが、俺の居場所は美咲の隣がいいなと改めて思った。
なんだか、似合わないが感傷に浸っている。
この道がそうさせているのか、はたまた人生の大仕事を前にしているからこんな気持ちになっているのか。
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