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俺の父親は、まだ俺が小さい時に病気で死んだそうだ。だから俺は写真でしか父親のことを知らない。
もともと体が弱い人だったらしい。
だから母ちゃんは女手一つで俺を育てた。
今と違って俺の子供の頃は両親が揃っている家というのが当たり前で母ちゃんは肩身の狭い思いをしたこともあっただろう。でも、母ちゃんはそんなこと少しも気にしていない様子で1人で俺の母親も父親もこなした。
その凛とした姿が美咲と似ていると思ったのはまだ高校生の時だ。
だから美咲に惹かれたのかもしれない。
世間では嫁姑と言うのは険悪な場合が多いと聞く。
だが、美咲と母ちゃんは仲がいい。
いずれは母ちゃんも1人では暮らせなくなる。そうしたら3人で暮らせたらと思っている。
それを、美咲はどう思うかが気になって聞いてみたことがあった。
あれは俺と美咲が同棲を始めたころだった。
「なぁ美咲?」
「んうっ?」
「いつか俺たち結婚してさ、それから直ぐじゃないにしろ母ちゃんと同居するとかってありかな?」
美咲は悩む様子もなく即答した。
「いいんじゃない?」
「本当か?」
「私、お母さんいないからうれしい。子供のころからずっとお母さん欲しかったから。むしろ想史と結婚しなくてもおばさんにお母さんになって欲しい」
「なんだよ、それ……。俺より母ちゃんを好きみたいじゃん」
「なに、自分の母親相手にやきもち妬いてるの?」
いつもみたいな意地悪な顔で美咲は笑った。
もしかしたら、美咲が俺を好きでいてくれるのは母ちゃん込みでなのかもしれない。俺も美咲も家族が少ないし父親とか母親とか手探りで始めるしかないし上手にできないかもしれないけど美咲となら挑戦してみたいと思った。
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