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「おはよう美咲」
二人掛けの小さなダイニングテーブルを挟み正面に座った。
「…………」
__返事ナシ。
俺の存在なんて無い物みたいに視線をぶらすことなくペラリと新聞をめくる。
それから、いつものマグカップを唇にあてた。おそらく、引いたばかりであろう控えめな色の口紅がカップの淵を彩った。
襟先までキリッとアイロンの効いた白いシャツ。傍らには灰色のスーツの上着が掛けられていた。
(久しぶりのいい朝が台無しだ)
「わかってる、わかってる……
お前はいつもそうだよな。
寝起きで忘れてたけど、俺たち喧嘩中だったな……」
「…………」
「ふっーー」
俺は大きくため息をついた。
全く、無愛想な女だ。
挨拶くらい返せばいいのに……と心の中でつぶやく。
でも、こういう毅然としたところがあるから俺と違って出世が早いのかな……
英字新聞に目を落としながら、お決まりのブルーベリのベーグルを頬張り、牛乳たっぷりのコーヒーで流し込む。
あっ?違ったか?カフェ・オ・レだっけ……。
この前、コーヒー牛乳って言ったら怒ったもんなぁ。
高校の頃は学校の自動販売機で美咲はコーヒー牛乳、俺はフルーツ牛乳をよく一緒に飲んでたのにな……
懐かしいな。あの四角い紙パックのやつ……
その頃はお前だってコーヒー牛乳って言ってたぞ。
「なぁーー美咲!
普通、喧嘩をしたら話し合うべきだろ……」
「…………」
彼女の眉間に皺がよった。
喧嘩をすると彼女はいつもこうやってだんまりを決め込む。
彼女の必殺技「無視」だ!!彼女を大好きな俺はけっこうこの攻撃がこたえる。彼女はそれを知っていてもちろんやっている。
だから結局いつも俺が悪くなくても謝る事になるんだよなぁ。
付き合い始めた頃から美咲は俺に謝ったことは一度だってない。
うーーん。
一度くらいあったか?と思い返してみたけどやっぱりないわ…
強情でプライドの塊みたいな女だな。
まぁ、あの頃は俺がコイツにベタ惚れで甘やかし過ぎたからこんな可愛げがなくなってしまったのかもしれないが……
そう思うと、少し責任を感じるな。
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