第1章

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 結局何もわからなかった。  宮橋さんのお別れ会は学校の体育館で行ったから、彼女がどこに住んでいたのかどんな家に住んでいたのかどんな家族に囲まれて育ったのか、私はわからなかった。  猫のおなか切り裂き魔は逮捕された。宮橋さんのおなかを裂いている現行犯を捕まっていた。噂どおり大学生だったそうだが、未成年だったと言うことでどこの誰かはわからなかった。  私は結局猫の死体を見つけることはなかった。  どうして土屋さんが、大学生が逮捕されたときにわめき暴れて手首を切ったのかもわからなかった。  私が宮橋さんと会話したその日の夜に土屋さんが宮橋さんを呼び出していたという噂も知らなかった。  あいつじゃなかったんだ!と泣き叫んでいた意味もわからなかった。  宮橋さんのおなかに何色のバラが咲いていたのかもわからなかった。 「梅雨明け来週だって。やっと元気になるよ。」  遥はあっけらかんと笑っていた。私を励まそうとしている気持ちは、痛いほど伝わっていた。 「世の中、何が起こるかわかんないね。」 「世の中なんて、何が起こるかわかんないのが普通だよ。」  わかったことはたった一つ。  私の初恋が終わった、ということだけだった。
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