第1章

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「へえ。」  想定していたよりも軽い返事が出てしまった。遥は、あんたはクールだね。と机で顔を隠すように肩を震わせて笑う。 「興味ないのはわかるけど、変なのに目つけられたらヤバいよ。土屋のグループって陰湿じゃん。ちゃんとリアクションしな。」 「ショックすぎて声が出なかったんだよ。」 「はは。」  そうは見えなかったけどね、と遥はさらに小刻みに肩を震わせる。 「学校に行こうとしたら玄関前で腹開かれて死んでたんだってさ。これだけ猫が殺されてるんだから、外に出さなきゃよかったのに。」 「あれって、犯人まだ捕まんないの?」 「まだだね。でも怪しい人物はいるらしいよ。なんだっけ、大学生風の男?だから、そのうち捕まるんじゃん?」  あたまいたいー、と遥は額を私の机にごりごりと擦りつけ、やがて動かなくなった。土屋達はまだ教壇で泣き叫んでいる。  どんより曇った空を見上げながら私は考えた。猫が死んだら悲しい。どうして犯人は猫なんて殺すんだろう。猫が嫌いなんだろうか。私はゴキブリが嫌いだから、見つけたら殺虫スプレーか新聞紙で叩き殺す。でも猫は叩き殺されてはいない。腹を裂かれて死んでいる、らしい。私は猫の死体を見ていないから断言できないけど。  腹を裂かれているなら、腹を切ることが好きなのかもしれない。解剖が好き、見たいな感じに。それか、腹の中が見たいと思ったのか。 「猫のおなかには何が入ってるんだろう。」  つい、そんな言葉が口から飛び出した。何を思ってそんなことを呟いたのかわからない。誰にも聞かれることのないはずの独り言に、思ってもいない方向から声がかかった。 「バラでいっぱい。」
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