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「ごめん、やっぱり保健室行く。」
ぐいっと制服の袖を引っ張られて、私は我に返った。目の前には青い顔をした遥が頭を抱えている。
「付き添ってくれない?」
「う、うん。」
そう言ってふらふら立ち上がる遥をかばうように、私は教室を後にした。
振り返ると、宮橋さんは両耳から血のように赤いコードをたらして、窓の外を眺めていた。
「宮橋と仲良いの?」
ふらふらしている遥は、小声でそんなことを聞いてきた。初めて会話した、と答えると、調子悪そうに遥は話し続けた。
「宮橋さぁ、空気読めないって言うか空気読まないって言うか、普段から浮いてるけど急に何言いだしてんだろうな。ヒく。土屋たちかなりキレてたのわかった?」
「切れてた?」
「気がつかなかったの…。視線で殺す!って言わんばかりにあんたたちのこと睨んでたよ。」
ということは、そんな土屋さんたちの前から連れ出すために、遥は声をかけてくれたのだろう。遥は、口調こそぶっきらぼうだけれど、よく気の回るいい子だ。
「ありがと。」
「私が過剰反応名だけかもしれないけどね。ともかく、宮橋は変だからあんまり絡まないほうがいいよ。」
保健室前までくると、遥はここでいいよと私から離れて保健室のドアを開けた。
「あの言い方じゃ、自分で猫の腹裂いて見たことあるみたいじゃん。」
付き添いありがとう、と言って遥は部屋へ入っていった。
『ねこのおなかはバラでいっぱい』
その日一日中、私の脳みそは宮橋さんの囁きと頬笑みがリフレインし続けた。
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