第1章

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 私は橋の欄干からずっとそれを見ていた。男が邪魔よく見えなかったことが残念だった。  男が宮橋さんの身体に包丁を入れているのも、よく見えなかった。彼女のおなかを裂いているところも、よく見えなかった、  もちろん、彼女のおなかの中にバラがあったかどうかも見えなかった。  でも、男が包丁を引いた途端、辺り一面にバラの匂いに溢れかえったことは間違いなかった。  日が落ち切り、雨が本降りへと変わり、赤いパトライトが堤防を覆い尽くして、バラの匂いがしなくなるまで、私はずっとそれを見ていた。
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