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ガッ
動けないはずの体を動かし、私の手をつかんだ。
「え、ちょっと何すんの」
そしてヒロトが私と目を合わせ、小さく言った。
「君がいるだけでいいんだよ」
「えっ」
「だから君がいるだけでいいの。その…見ていたいんだ。君のことが。君の元気に動く姿を見て、僕も元気になれるから。こんな体でも生きようって気が湧いてくるから」
一瞬新緑の心地よくも強い風が吹き、ヒロトの電動車いすが大きく揺れていた。
私たちは周囲の反対もなく、無事に付き合うことができた。あれから葵が茶々を入れ続けてうざいけど、よくよく考えれば彼女は人を見る目が本当にあったのだと思う。彼女にはおずおず嘘はつけないなと肝に銘じている。特に彼の側にはたくさん人がいるから大変だけど。快く受け入れてくれた。それから部も続けることにした。新キャプテンの荷は重いけど、死ぬまでは職務を頑張るつもりだ。
それから1年後私は結婚した。お相手はもちろんヒロトだ。ひ孫も孫も彼の連れ子だけど初めてできた。私は幸せだ。90歳にもなって、こんな恋をするなんて。人生という試合は本当に面白い。たしかにあこがれのキャプテンをはじめとして、誰もが死という人生のゲームセットを迎えなければならないのは怖いけど、たとえ試合中にセリフが一言しかなかったとしても、誰もが平等に主役になれるチャンスがあるのだから。
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