その日、東京は雪でした…

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その夜、東京は雪が舞っていた。 雪は、時間に縛られない人にとってとても美しく神秘的なかもしれないが、東京で普通に暮らしている人々にとっては非常にやっかいなものだ。 電車は止まる、道は大渋滞、人は転んで怪我をする。案の定この日も都内を走る電車に遅延や運転見合わせが相次いでいた。 「やっぱり、止まったか。」 地下鉄丸ノ内線の車内で、真田は心のなかでつぶやいた。新大塚にもうすぐ着く手前で電車はゆっくり止まった。 「雪で徐行運転をしているため折り返し列車が遅れています。しばらくお待ち下さい」 車掌のアナウンスが流れると周りの乗客が一斉にスマホを激しくいじりだした。真田も急いで鞄からスマホを取り出した。しかしそれは、交通情報や天気予報を確認するというわけではなく、ただ時間を見たかっただけだ。 「間に合うかなぁ」と若干、雪を恨みながらつぶやいた。別に絶対行かなくてはならない用でもなかったが、つまらない約束をしてしまっていた。目的の地は池袋であと一駅だというのに…。 「ああ、こんなことならやっぱり断ればよかったな。押しに弱いんだな、俺。」自嘲気味に首を横に振った。一時間ほど前、マキという女性からチョコをあげるから池袋に来てと言われ、断れず向かうことにしたのだ。まぁ、キャバ嬢なのでマキの本名は知らないが。
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