鴨は突然、葱をしょって

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「はあ?」 私は思いきり、顔をしかめて見返した。 揃えていたプリントの束が、少し乱れる。 「んなわけないでしょ! お見合いの席でだなんて、お手軽すぎよ。 それに私、追いかけられることはあっても、追いかけるのは主義じゃない」 まあ、交際を取り決めたのは、強引だったとは思うけどね。 そこに、私の感情は、ない。 あるのは打算と計算だ。 「はいはい、確かにあんたはそっち系だわね。 でもさ、あんたみたいな女が、本気で誰かを好きになったら、どんなふうに変わるんだろうねぇ」 「そういう加奈は、どうなのよ」 「私?私は、恋愛と結婚は別物だよ」 そう言いきる加奈は、どこかこらえるような表情をしていた。 私はそれに気づかないふりで、手を動かすことに集中した。 「大井戸先生、ちょっといいかしら」
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