第1章

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 重篤の心不全と診断され、食べ物を受け付けなくなった祖母は、 1週間、生死の境を彷徨い、残り僅かな蝋燭の灯りがふっと燃え尽きる様に 、娘の手の中で静かに旅立った。  認知症だったが私の事は最後まで忘れないでいてくれた。いつも私の名を呼んでくれて、その度に泣いた祖母。あまりにか細い祖母の背中に手を置いて、か弱く震える手を握り締めながら、私の涙もまた止まる事はなかった。最後に会いに行った時も、苦しそうな息使いの中からでも私の名を呼んでくれた祖母。  若い頃の祖母は靱い女性で、同居していた母をキツく叱っていた事が多かったから、自然、私も祖母があまり好きではなかった。だけれども晩年には人が変わった様に穏やかな女性になり、遺影の祖母は若かりし日の靱さや、 キツさが抜け、愛らしく笑っている。  私の家庭は複雑であった。けれども其の中で、自分の全てを捧げて祖父母に尽くしていた母は、祖母の事を許せないと言いながらも、晩年の祖母に寄り添い尽くし続けた。それに答えるように、自分の子は解らなくても最後まで母の名を呼んでいた祖母の愛。  そして葬儀には、気丈な母が子供のように泣き、炎に包まれるその刹那まで祖母にすがるように崩れ落ち、その場を動こうとしなかった震える背中。あれ程憎みあっていた2人の間に生まれていた深い愛の絆に、人間同志の尊さ美しさを見て、温かな涙が止めどなく私の頬を伝った。  愛おしい人を送る時、いつも後悔ばかりが先にたつ。もっと側にいてあげれば良かった。祖母の私への愛に私は答える事が出来なかったという思いは消える事はないであろう。ごめんね。もっともっと貴女の為に出来る事はあった。ごめんね。今も尚、別れの際の貴女の泣き顔が、心もとなげな貴女の背中が胸を刺す。ごめんね。おばあちゃん長い間、寂しかったよね。  愛らしく笑う祖母の遺影の横で祖母に包まれているように私は眠る。 父の病気が解った時、役に立てない我を泣いていた私に、掛けてくれた 祖母の言の葉が私を包む。『敬子ちゃんは、いてくれるだけでいいんだよ』
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