おとこがすき。

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 寂しいなって言ってしまった時の、その言葉を聞いた時の、奏の顔が忘れられない。  哀しさとほんの少し、拒絶の色。 でも、何処か、ほっとしたような、すがるような目。  乱暴な口調に、そっけない態度で人をバカにして、突き放して予防線を張る。 自分に触れる人間を、振るいにかける。  私は、どれだけあいつに試されても、絶対にふるい落とされるつもりはない。  世間からは到底認めてもらえない様な、奏の歪な生き方を肯定してあげたい。  だって、初対面の場で、不器用なりにも彼は優しさを見せてくれた。 本来なら、よく知りもしない男女間での親切なんて、多少なりとも下心ありきで成立するものだと思うし、実際、彼が誘ってきた時には、そう言うことか。と思ってしまった。  けれど、あの時の奏には下心なんて微塵もなく。  後から、あれは、洗礼の様なものだったのだと、思った。  もし、私があの誘いに乗ってしまってたら、きっと、あの一晩で全部終わって、それから先、奏の人生に関わる事はなかったんだろうと思う。  私は、これからも絶対に、奏に幻滅されるような事はしたくない。 奏が安心して一人で生きていけるように、私は、どんな形でも、奏を本当の一人にはしない。
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