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警視庁に行くまでの車の中で哲さんは”ブランチの時間にちょうどいいな”と言っていたけれど、結局あそこを出て車を走らせているともうお昼の時間はとっくにすぎていた
「わ、すごいおいしいです!」
「それはよかった」
都内から郊外に向けて走ること1時間
最近テレビで紹介された和食のお店が近くにあることを俺は思い出して哲さんに提案。それはすぐに採用されて、現在に至る。
ボリュームはそこまで多くないものの、種類豊富な和惣菜と本日の肉料理をかわるがわる頬張りながらそのおいしさに感動する
哲さんが頼んだのは魚料理で旬の食材である鮎が哲さんの綺麗な箸捌きで見事丸裸にされてしまう
「颯太、ついてる」
昼時のピークを過ぎた店内は落ち着いていて、古民家風の少し広めな店内にいたのは俺たちを含め3組程度だった
食事をする仕草が好きだ、と誰かが言っていた。たぶん男友達か、後輩か。理由はなんかエロいからだとか。
トン、と自分の口元に手を当て哲さんはふわりと微笑む
記憶の片隅に追いやられていた友人の言葉を思い出した俺はすっかり、次々とおいしそうな食材が吸い込まれていく哲さんの口元に魅せられていて。
その言葉に一瞬きょとんと固まって、慌てて自分の口を強く拭った
「違う違う、逆」
クッ、と喉を鳴らして哲さんは笑う
そうして箸を置いて、向かい合って座っていた俺に手を伸ばした
「…ちょ、」
目を見開く俺
哲さんの手を止める前に彼は俺の口元についていたご飯粒を掻っ攫い、あろうことか自分の口の中へと放り込んでしまった
ボワッと顔が赤くなるのを自分でも感じる
咄嗟に周りを見渡せば、それぞれの客は自分たちの会話に夢中で誰も俺たちを見てはいなかった
それでも恥ずかしさはあるもので…
こういう仕草をなんの躊躇いもなくやってのけるこの人は本物の天然タラシなのだろうと思う。
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