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「なにやってるんですか?」
ぷくく、と笑いながら俺は煙草とライターの風よけになるように両手で包む込むようにして壁を造った
まるでキスをする直前みたいに距離が近くなって、驚いた哲さんの目が俺を捉える
「ありがとう」
カチ、と音を立ててライターに火はついた
そのまま煙草の先を赤く燃やして、ゆっくりと吐かれる煙を目で追って、それからまた哲さんへと視線を戻す
「…誘ってる?」
煙草を手に持ち替えて空いた手で俺の唇をなぞれば、哲さんの低いテノールが俺の脊髄を直に撫で上げる
「……まさか。でも、海っていいですね」
海だから。いつもと違う場所で、気分も高まっているから、
きっと俺の心臓はこんなにドキドキしているんだと思うんだ
肌にまとわわりつく潮風も、足元を濡らす冷たい波も
全部全部俺の心を持ち上げて哲さんの方へと押し流していく
キュ、と俺は哲さんの服の裾を握る
彼の目が僅かに見開かれて、それから優しげに雄の色へと変貌した
「おいで、」
俺は手を引かれ、暖かな砂の上を歩いて行った
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