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2人で散歩をするように歩いて連れてこられたのはすぐ傍の綺麗なホテル
なんとなく無言で、お互いになにも話さなかったけれどこの前みたいな気まずさはなくて。
ただただ穏やかな空気が2人の間を流れている、そんな感じ。
「颯太」
ホテルのフロントで空き室を照会してもらっていた哲さんに呼ばれ、駆け寄る
シーズン前と言うことで広いロビーは閑散としていて、男二人で昼間からホテルに入ることを変な目で見られることはなかった
カードタイプの鍵を手に持ち俺たちはエレベーターで部屋へと上がる
いつもとは違う状況に、俺の心拍数も静かに少しずつ上がっていった
1012号室
横目で見つめたその部屋の扉のナンバー。特に意味はないけれど今日は普段目につかないところに気が付く日で、冷静で落ち着いているけど確実に興奮していることが自分でもわかる。
「…オーシャンビューだ」
いつもは予約限定の客室らしいが、今回は空き部屋も多く予約も埋まることはないからと特別に入れてくれたそう。
ここにきてようやく今まで半歩後ろを歩いていた俺が哲さんを通り過ぎベランダへと駆けていったのを見て、哲さんが後ろから補足してくれた
大きな窓を開けると潮風が流れ込んできて、先ほどの風をまた頬で感じる
1歩ベランダへと出ると波のさざめきが耳に届いて、手すりに寄りかかりながら俺は目を閉じた
「高いところは平気か?」
「むしろ好きです。10階、でしたっけ?すごく素敵なところですね」
目を開けて振り返ると部屋の中央で微笑みながら立つ哲さん
「おいで」
それは魔法の言葉のように合図となって、
俺は哲さんの腕の中へと吸い込まれていく
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