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耳に響くのは遠くに聞こえる波の音と溜息にも似た哲さんの吐息
鼻につくのは確かな潮風と2人の汗の匂い
陽の光が差す明るい部屋の中
その光が消えてなくなるまで、
激しく揺れるベッドの上で哲さんに何度も、何度も抱かれたのだった
―――
「颯太」
「どうしました?」
「…いや、なんでもない」
帰りの車の中
ラジオのFMから流れる音楽を聞きながら、なんとなく無言の車内
車窓から眺める景色はすっかり夜に染まっていて、高速を降りた今は街のネオンが眩しく光っている
「今日変だぞ」
「…えー?そんなことないですよ」
自宅に近づいてきて別れが恋しくなっていることを悟られないように、俺は哲さんの横顔に笑顔を向けた
ハンドルを握る綺麗な顔を見つめて、思う
不毛だなぁ、って。
「そうか」
訝し気な声に、俺は少しだけしまったって思った。
気づかれないようにって考えすぎて逆に怪しくなってるやつ。
きっとまたしばらくは会えないのだろう。それまでになんとか元に戻さなければ。
っていうか哲さんはいつでも部屋に来ていいと言ってくれたけど、実際次にいつ会えるかなんてわからない。
俺も就活あるし、哲さんだって仕事は忙しいし。
だから変に身構えず、今この時を楽しまなくちゃ……
「颯太、ついたぞ」
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