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なんて考え事をしているうちに哲さんの車はすでにうちのマンションの駐車場へと停められていた。
マンションを見上げて、あっと呟けば哲さんは後部座席から俺の荷物を取ってくれる
あまりにもあっけなさ過ぎて、正直なんて反応していいかわからない。だけどとりあえずなにか言わなくちゃ。
カラカラに乾いた口を開いて言葉を紡ごうとしたその瞬間、先に言葉を発したのは哲さんの方だった
「渡そうか、迷ったんだけど」
珍しく弱気な発言に俺はきょとんと固まって哲さんを見つめる
「引かれるかもとか考えたしお前を縛ることになるのかもしれないし」
全く話の意図が読めず俺はただ、ハァ…?と間抜けな声で相槌を打つ
「でもまたお前と会えなくなるのは困るから、渡しておく」
そう言って手渡されたのは一つの鍵
なんの変哲もない、たぶん家の鍵
その意味とは?と聞く前に哲さんは矢継ぎ早に話を進める
「オートロックの暗証番号は俺の誕生日。
平日の帰宅時間はバラバラ。週末は基本的に休みだから金曜の夜から来るといい」
「………ぜっんぜん、話が読めないんですが……?」
パチクリ、と目を瞬かせて眉間に皺まで寄せて俺は哲さんの瞳を見つめた
すると彼は逆に不思議そうな顔をして、さも当たり前のように言い放った
「だから合鍵だって。俺の部屋の。」
――――ハイ?
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