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ただ今の距離、零センチ。
噛みつかれるように唇を合わせて俺は引き寄せられるように哲さんの方へと体が流れて行った
互いに目を瞑ることはせず、
というよりも射るような強い視線が俺の心を鷲掴んで離していくれそうにない。
こんなに熱く見つめられて目を逸らすなり瞑るなり出来る人がいるなら挙手してほしいくらいだ
「んっ、ハァッ…」
明るい部屋とテレビからの笑い声
ただ耳に届くのは粘着質な唇の重なり合う音と俺の深い息継ぎの声だけ
女の子とするよりも何倍も気持ちのいい、キス
自分はヘタクソだったのか、それとも絶対的な経験値の差か。
次第に頭がトロンとしてきてぼうっと哲さんを見つめる
自分でも熱のこもった目で哲さんを見つめている自覚はある。まるでこれでは俺が彼を誘っているようではないか
だけど獣の色を持った哲さんも、負けてはいない
熱くて、鋭くて、溶けちゃいそう
「颯太」
ちゅぱ、と離された唇
濡れて色気を放つそこから紡がれるのは自分の名前
獣の色が僅かに失せて、理性を取り戻した人間の哲さんは俺をきつく抱きしめた
「悪い、少しだけ妬いた」
「……妬いた?」
「颯太の友達に」
なんじゃそら、と驚く気持ちと
え、それって…?と口には出来ない疑問
何を言おうかと迷って、迷って迷って迷った挙句
結局俺は何を言うこともなく哲さんの首元に顔をうずめたのだった
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