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「ほら行くぞ」
俺の少ない荷物を持ち、車の鍵を見せびらかすように回して哲さんは部屋を出ていこうとする
「ちょ、待ってください!」
俺はそんな彼を慌てて追いかける。
こうして俺たちの休日ドライブは始まったのだった。
***
外は本当に天気が良かった
夏の一歩手前のこの季節は日中も過ごしやすくて俺は好きだ
哲さんや俺が住んでるマンションの辺りは家族向けの賃貸も多いので、車が発進してからしばらくは小さな子供連れの家族が多く見られた
「書類、置きに行くんでしたっけ?」
マンションを出て暫くしてから俺は哲さんの横顔に話しかけた。
明るいところで彼の車を見るのは初めてで、黒を基調とした内装に俺は素直に”かっこいいな”と思う
「ああ、問題児が1人いてな。」
「問題児……」
面倒だ、と口にする割には哲さんの表情は怒っていなかった。
むしろどこか優しくて、きっとその人のことを部下として心から可愛がっていることが伝わる
そんなことを話しているうちに車は警視庁の地下駐車場へと吸い込まれていった。
慣れた様子で車を止め、シートベルトを外す
グローブボックスから書類を取り出そうとして俺のひざ元にかがみこんだ哲さん。ふわり、と香った香水が今まで嗅いだことのない香りで俺は変な気持ちになりそうになって慌てて彼から目を逸らした
「悪いな、少し待っていて……いや、どうせなら一緒に行こう」
顔を上げた哲さんは途中まで言いかけて笑いながら俺を誘った
俺はもちろん車で待っているつもりだったのでこの提案に首をかしげる
「でも仕事なら俺はいかない方が…」
「今日は非番だし部外者が入ったところで俺といれば何も言われない。
それに俺一人でいけばいつ戻ってこれるかわからないからな。」
なんて言いつつ哲さんの手はもう俺のシートベルトを外しにかかっている。
あっという間に車を追い出され、結局反論する間も与えられることなく俺は哲さんの職場へと繋がるエレベーターに乗せられたのだった
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