Three

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なんなんだ。 皓太は自分のモヤモヤとした気持ちを持て余していた。 言いたいことがあるなら、いえばいい それは、いつも皓太が朱里に言っている言葉。 だが、朱里はいつも曖昧に微笑むだけで、彼に向かってくることはない。 追いつめても、猫のようにするり、と逃げていく。 さらに最近は、視線があっても先程のように、逸らされてしまう。 後輩とは、笑顔で話をするのに。 あんな笑顔、俺にはしない そう考えて、皓太はまた、イラッとする。 (やっぱり別れるべきなのか、俺達) 半ば自棄になりそんなふうに考えてみたりもするが、他の女にはなぜか目がいかない。 気づくと視線が朱里を追ってしまい、失笑する。 (俺も大概バカだな・・) 皓太は事務仕事を諦め、立ち上がる。 「外回り行ってきます」 そんな皓太に、理緒がすかさず声をかけた。 「今日は暑気払いですから、忘れないでくださいねッ」 「あれ?そうだった?」 そういえば、そんな回覧をみたような、みなかったような。 「七地さん」 やっぱり忘れてる 理緒が笑いながら、場所の名前と電話番号の書かれた地図を、皓太に手渡す。 「7時からですからねー。忘れないでくださいよ」 「さんきゅ。理緒ちゃんは気が効くなぁ。じゃあまた後で」 とびきりの笑顔で、リップサービス。 目の端に、一瞬体をこわばらせる朱里の姿をすかさずとらえ、何とは無しに満足する。 少なくとも、朱里はまだ自分のことを意識している。 「いってらっしゃい」 理緒が満面の笑みで見送る。 わかりやすい、と皓太は心の中で微笑む。 (朱里もこんな風にわかりやすければ、いいのに) そんなことを考えながら、朱里を妬かせようとしている自分に苦笑する。 (・・小学生か、俺は) 皓太は、盛大に溜息をつき、玄関で受付の女子に愛想を振りまき、会社を後にした。
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