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Four sideA
(やっぱり、来なきゃ良かった・・)
開始1時間で、既に何十回そう思ったことか。
朱里ははぁ、とこれまた何十回目かの溜息をつく。
皓太の隣には理緒が陣取り、これ見よがしにしなだれかかっている。
更に腹立たしいのは、彼も満更でもないらしい笑顔で対応しているところだ。
ガヤガヤとした居酒屋の店内である。
自分一人居なくても大丈夫だろう。
頃合いを見計らって逃げよう、と朱里は考えていた。
チビチビとぬるくなったビールを飲んでいると、朱里の隣に皓太の同期の高槻がビール持参でやってきて、座った。
「朱里ちゃん、お疲れ様」
「高槻さん、お疲れ様です」
「朱里ちゃん、暗くない?なんかあった?」
高槻が顔を覗き込むので、
「・・なにもありませんよ」
と、朱里は無理に笑顔らしきものをつくった。
「顔、かなりひきつってるけど」
高槻がプッと吹き出す。
酒が入っているからか、上機嫌だ。
「もぅ・・。あんまり意地悪言わないでくださいよー」
朱里が苦笑する。
「そんなに怖い顔してたら、美人が台無しだよ」
と、彼がまた朱里を覗き込む。
「ちょ・・顔近いです」
朱里が体を引くと、高槻が強引に体を寄せてくる。
「ねぇ、アイツとはもう別れた?」
「・・な・・!」
朱里が青ざめた顔で、弾かれた様に高槻を見上げる。
視線が絡まる。
「ね、俺と付き合おうよ」
ふざけているのだ、と思ったが、目が笑っていない。
「こんなところで、いきなり、そんな・・」
「いいじゃん、丁度。アイツも居るし」
視線を移すと、皓太が射る様な視線で、こちらを見ていた。
「上手くいってないんでしょ?」
「それ・・は」
「あんなに何度も溜息ついてさ」
じりっと高槻が距離を縮めてくる。
彼のつけている香水がふわっと香る。
スパイシーで少し甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「ね、俺にしなよ」
そういいながら、高槻が少しずつ朱里を壁際に追い詰めていく。
「やッ・・」
朱里が高槻を避ける様に身体をよじるのと、少し離れた場所で、ガシャン、と大きく音を立ててテーブルが倒れたのはほぼ同時だった。
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