プロローグ 月色ミゼラブル

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 「ずっと前から好きだったんだけどさ……付き合ってくれない?」  その突然の告白は、粉雪がちらつく通学路での出来事だった。  雪風に長めの髪を遊ばせて照れ隠しにハニカミながら自然な言い回しで爽やかな美男子の口から放たれた言葉を受け取ったのは隣を歩く背の低い側頭部が跳ねたショートカットが印象的な目の大きな美少女。  「え……?」  少女は戸惑いの声と共にマフラーを口元からズリ下げて少年の顔を見上げる。  誰もが憧れる美男美女の好カード、ちらつく雪の演出も相成ってムードは盛り上るーー筈だった。  「ゴメン……付き合うとか無理だよ……」  少女の口から放たれた言葉に落ちる肩と共にため息が少年の口から漏れるーーそんな所で目が覚めた。  ーーーーー  「ハァ……ハァ……」  そこは体を一定のリズムで振動させながら景色がゆっくりと変化する電車の車内だった。  どうやら春の陽気にあてられていつの間にか寝てしまっていたらしい。  窓の外を見ると、僕が住んでいた都会とは違う海沿いの田舎街の風景が広がっていた。  「うぇ……気持ち悪……」  さっきの悪夢のせいでシャツは大量の寝汗を吸い、不快指数の高い湿り方をしている。  気分を落ちつかせる為に窓の外を眺めていると、電車がトンネルに入り遮断された景色の代わりに車窓に僕の姿が映った。  「はぁ~……」  改めて見た自分のルックスに思わずため息が無意識に漏れでる。  僕は自分のルックスが大嫌いだ……。  低身長で細身の華奢な体。  何を塗った訳でもなく(当たり前だけど)光沢のある唇と長いまつ毛の下の大きな瞳。  髪は癖で側頭部が左右に自然と跳ねた細く柔らかい黒髪。  そう、僕こと月之瀬 瑞季(つきのせ みずき)は、神様の造形ミスでまるで女の子の様な姿をしてこの世に産まれた世界一不幸な男子高校生なんだ。  来る日も来る日も男子に追われ(学校は男子校だった)、イメチェンに髪を短く切れば学校中の生徒からもう一度伸ばして欲しいとゆう嘆願書が机に山を築き、さっきの悪夢も僕が同性に告白された夢……。  だけど、遂に僕はそんな生活から逃げ出した。  仕事で海外を忙がしく飛び回る放任主義の両親に【とある全寮制の学園】への転校を許可された僕は、この不幸な青春時代を終わらす為に現在新たな学校へと向かっている。
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