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一体何が起きたのかは検討がつかなかったが、僕が掴んだのはどうやら船の先に付けられた女神像の足の部分で、命の危機に晒されているとゆう理不尽な状況だけは理解が出来た。
「お~い! 大丈夫かぁ~!?」
女神像の頭の向こうのさっきまで僕が立っていたフェンスの向こうから緊張感をまるで感じないけど、テノール歌手を連想させる様な…………。
そんな低く美しい声が聞こえた。
「大丈夫かって…………大丈夫な訳ないでしょ!? 早く助けて!!」
「よっしゃ! 今から紐を投げるさかい、コレに掴りや!!」
僕の必死の懇願に流暢な関西弁で答えた姿の見えないその人物の声と共に黒い紐状の何かが目の前に差し伸べられた。
「…………何コレ?」
僕があっけに取られたのも無理はなかった。
目の前に現れたその紐は、何処をどう見てもパソコン等に使う少し長めの黒いUSBケーブルにしか見えなかったからだ。
「心配せんでもええで! このUSBケーブルは電気の伝導率を上げる為に特殊な合金を使った特別製や!! だから安心して掴まれや!!」
……言っちゃったよ。
USBケーブルじゃないだろうって必死に念じてたのに言っちゃったよ……。
「他には何か無いの!?」
「他には何も無いわ! これがお前の蜘蛛の糸や!」
何だその芥川イズムは!? と心の中でツッコミを入れてみたが、既に腕は痙攣して悲鳴をあげている。
「ク……」
苦渋の決断。
どうするのか必死に考えた結果、僕が出した答えはーー。
「こんなの掴める訳無いだろアホ!! ちゃんと助けてよ!!」
ブチッ!
片手を離すとマズイので、口を使って僕はそのUSBコードを思いきり引き千切ってやった。
「あぁあぁあぁ~~!?」
妙にビブラートの効いた間抜けな悲鳴が頭上から夕陽が輝く暁の空へと響き渡る。
「何でもいいから早く助けて!!」
「ワイの七千八百円が……」
姿は見えないが声の低すぎるトーンから落ち込み具合が手に取る様に判った。
てゆうか、そうこうしてる内に手が痙攣してる状態から既に感覚が無くなりつつあるんですけど!?
「誰かーーー!! 助けてーーー!!」
渾身の力で叫び声を腹の底から絞り出す。
そう、僕は一番近くにいる役立たずへと成り下がった人物を見限ったからだ。
ーー二分後、僕は騒ぎを聞き付けた船員によって無事に助け出された。
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