弁天娘

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桝屋喜右衛門。 西木屋町で商いを営んでいたというその人は、古谷俊太郎という勤王家であったらしい。 先日捕縛した浪士を囮に使い、炙りだされたその店からは大量の火器や弾薬、多くの密書が見つかったという。 去年の政変より京を追われた筈の長州の連中や、肥後の勤王党とのやり取り。 大名御用達の店とはいえ、一介の商人とは明らかに一線を画すそれらに、こうして店の主を捕らえてきた、ということらしい。 「これがなかなか強情な奴でして」 武田さんが忌々しげに言葉を吐く。 先の冬頃に入隊したその人は、上に媚びへつらう、なんとなく苦手な類の人間だった。 ぐるりと縄で縛られている喜右衛門だが、よく見ると猿ぐつわをはめられながらも既にその顔には殴られたような痕が見てとれる。 恐らく武田さんが向こうで一度吐かせようとしたのだろうが、市中での余計な騒ぎはやめていただきたい。 土方さんも似たようなことを考えていたのか、僅かに眉を潜めて顔を上げた。 「ご苦労だった。ここは俺に任せてお前らは見つけた書簡に片っ端から目を通してくれ。原田と永倉は前で誰も近付かないように見張れ。あとは他の連中に周知させて周りにおかしな動きがないか注意するよう伝えろ。……総司」
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