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不敵に笑う、意地の悪い目だった。
「釘と蝋燭、貰ってきてくれ」
何をするのか、なんて聞くまでもない。
こういう顔をする時のこの人は、さながら亡者を折檻する鬼そのものだった。
「承知しました」
それをわかっていながら表情を変えない俺もまた、一部の人間から似たような名で呼ばれているのだけれど。
……仕方ないじゃないですか。
土方さんが口にした穏やかでない道具に僅かな怯えを滲ませた喜右衛門を見下ろす。
だがやはり、然程心は動かなかった。
この世には強者と弱者がいて。
そこには大きな隔たりがある。
弱い者は弱いなりの在り方しか出来ない。
それが嫌なら死にものぐるいで強くなればいいのだ。
俺もそうした。
そうなる前にこうして手折られるなら、それもまた天命と諦めてもらうしかない。
それが、今この世というものなのだから。
じめじめとした薄暗い土蔵の中、ゆらりと揺れる明かりに頭を下に向けた男の身体が浮かんでいる。
部分的に外された二階の床板。
その真上に掛かる梁から縄で吊るされた喜右衛門の足の甲には五寸釘が打たれ、まるで燭台のように立てられた蝋燭が、震えた明かりを滲ませている。
その痛みと頭に上った血とで朦朧としているのだろうそいつの意識を繋ぐのは、傷口へと伝い落ちる蝋の熱だった。
低い呻き声が響く。
「……話す気になったか?」
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